Kyoto University 21st Century COE Program Genome Science 21世紀COEプログラム「ゲノム科学の知的情報基盤・研究拠点形成」
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「分子集合の可視化と姿形の構築」

京都大学大学院薬学研究科
創薬科学専攻薬品合成化学分野
富岡  清
はじめに
 分子の世界は、分子集合の世界である。分子が単独で存在することは稀で通常は集合或いは会合状態で存在する。分子集合の興味深い点は、その集合状態の姿形が一定に定まり、その結果として物性と機能が発現することである。しかしながら 20 世紀までの有機化学は、統計熱力学の 世界であるにも拘わらず、分子集合の化学的な取り扱いは不得手であった。例えば、コラーゲンが3分子会合となる必然性の理解も ままならないのが、その間の事情を端的に示している。事実ありきの技術は持ち得たものの、科学には到達していないと言い切っても文句は出ないのが現状であろう。

低分子構造の設計と分子集合の構築
 分子の自己集合は、spontaneous organization of molecules into stable, structurally well-defined aggregatesとして化学的に定義される。分子集合の姿形を単一低分子の構造から組み立てる方法論が開拓できれば、分子集合の理解に到達できそうである。分子集合を引き起こす分子間の 力を、水素結合とファンデルワールス力だけに限定した分子の設計が鍵となる。即ち、二個のアミド結合と三個のメチレン直鎖からなる分子1は格好の材料である。
1は二つのアミドを連結するメチレン鎖の偶数奇数に対応して分子間水素結合の形態が異なる。偶数であると二個のアミドカルボニル基の向きが逆平行と なり、奇数だと平行となる(図1)。偶数の1は隣り合う二分子と二カ所で平面状の水素結合を形成してリボン状集合体となり、奇数の1は隣り合う四分子と 四カ所で3次元的な水素結合を形成して繊維状集合体となる、と設計した。

分子集合の可視化
 分子集合はキセロゲルの電子顕微鏡写真で直接に観測すると可視化できる(図2)。予想は期待通りに確認され、それぞれリボン状及び糸状の 分子集合が確認できた。


図1 分子1の分子間水素結合様式

図2 SEM写真(左:n=6,右:n=9)

まとめ
 ジアミド分子1はペプチド及び脂質の模擬である。これら生体内物質の物性に演繹する楽しみはこれからである。

発表文献
K. Tomioka, T. Sumiyoshi, et al. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123 , 11817; 2003 , 125 , 12137.