Kyoto University 21st Century COE Program Genome Science 21世紀COEプログラム「ゲノム科学の知的情報基盤・研究拠点形成」
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「糖鎖科学とインフォマテイクス」

京都大学大学院薬学研究科
生命薬科学専攻生体分子認識学分野
川嵜 敏祐

 昨年4月のヒトゲノムの完全配列決定宣言を節目として、生命科学はポストゲノム時代に入ったといわれている。 ゲノム情報から最も離れたところにある生体機能分子であり、第3の生命情報鎖とよばれる糖鎖はポストゲノム時代の研究対象として重要性が 注目されている。
 ポストゲノム時代の糖鎖科学の特徴は、異分野融合的多元的価値体系を持つ融合領域であることである。これからの研究方向としては、 まず、当然のことながら、ゲノム研究の成果を最大限に利用することがあげられる。ついで糖鎖構造生物学研究がある。ここでは、糖鎖の 配列構造、いわゆる一次構造のみならず、二次構造、三次構造、そして、糖鎖とタンパク質との相互作用の結果としての糖鎖構造、いわば、糖鎖の四次構造を明らかにすることが必要であろう。このためには、X-線結晶解析、質量分析、NMRなどの機器分析手段の一段の高感度・ 高精度化とこれらを組み込んだシステムとしての分析技術の工夫・進歩が期待されている。
 そして本 COEのテーマであるインフォマテイクスの重要性がある。生命科学領域におけるインフォマティクスの重要性は、インターネットによる遺伝子情報データベースの利用などにみられるように、周知の事実である。糖鎖研究においては、 Complex Carbohydrate Research Center (CCRC),が1987年に創設したCarbBankが公的データベースとして有名であるが、残念なことに1996年に 新規登録を中止した。このような背景のなか、昨年7月に公開されたのが、GenomeNet(京大化学研究所バイオインフォーマティクスセンター) のKEGG/LIGAND/GLYCANである。CarbBankをベースに画期的改良を加えた糖鎖構造データベースである。糖鎖データベースとして世界の標準と成ることが期待されている。
 私たち京都大学を中心とした地域の糖鎖研究グループ数研究室はこのデータベースの立ち上げに際して、グライコインフォマティクス 研究会を組織し、糖鎖研究の専門家として協力している。生体内での糖鎖の働きを明らかにし、その制御機構を分子レベルで理解するためには、糖鎖を基本軸に個々の情報が連結され、統合され、最終的には糖鎖の機能のネットワークが解明され、糖鎖の機能を一つのシステムとして 捉える生命科学の新しい境地を拓くことが期待される。このためには、糖鎖の化学的情報と生物学的情報を統合したデータベースを基礎にし、 シミュレーション、モデリングなどのコンピュータ科学の成果を駆使する「グライコインフォマティクス」を確立する必要がある。 グライコインフォマティクスの成果は、新しい医薬品の開発や新しい産業の創生のための有効な手段として利用されることは間違いないものと思われる。