Kyoto University 21st Century COE Program Genome Science 21世紀COEプログラム「ゲノム科学の知的情報基盤・研究拠点形成」
   ホーム   概要   組織   研究   教育   活動   アーカイブ


金久 實
藤 博幸
Prof. KAWASAKI
加藤 博章
大高 章
京都大学 大学院
薬学研究科創薬科学専攻
助教授
大高 章
 重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行に代表されるように、感染症の脅威が再び増大しつつある。 多剤耐性HIV-1株によるAIDSの再流行も近未来に予測可能な新たな脅威になっている。AIDSの原因ウイルスであるHIV-1のライフサイクルの様々な部位を標的とした薬剤の開発研究が進行しているが、我々は既存抗HIV剤とは異なった作用機序を有するペプチド性化合物の開発研究を行ってきた。具体的にはHIV-1の標的細胞膜との融合を阻害する化合物である。HIV-1と標的細胞膜の融合メカニズムの概略を以下に示す。
  1. HIV-1の表面蛋白質gp120が標的細胞のCD4と結合する。
  2. gp120はさらに標的細胞上のHIV-1に対する第2受容体(ケモカインセプター)と結合する。
  3. HIV-1のgp41蛋白質のN端側が標的細胞膜にアンカリングされ、gp41はそのN末端α-helical region (N -region)で3本鎖α-helical coiled-coilを形成する。
  4. この3本鎖α-helical coiled-coilに対して、gp41のC末側α-helical region (C-region)が外側から取り囲むように逆並行型に結合し、6-helix bundleが形成される。
  5. その結果、HIVおよび標的細胞が近接し、膜融合が成立するという動的超分子機構である。この機構に基づき、抗HIV新規C-Peptide(C-region由来)のデザイン、合成研究を行ってきた。(Fig. 1)
 さて、最近エマージングウイルスによる感染症対策が緊急の課題となっている。そこで本COEプログラムではゲノム情報と化学を統合し、 これらをエマージングウイルス感染症に対する治療薬開発を指向した研究を行う。SARSのような、新型ウイルス性感染症の突然の拡大は、世界のグローバル化に伴い、 今後も頻発することが予想される。ウイルスの普遍性の高い分子システムを標的とした抗ウイルス剤の開発は、新種ウイルスに対する防御体制を確立する上で、必要性の高い研究課題である。 本研究では、ウイルス間で分子機構に相同性が高い感染時の膜融合を標的に、膜融合阻害性ウイルス剤(抗HIV剤、 抗SARS剤を具体的ターゲットとする)の普遍性の高いデザイン概念の創出と ペプチド化学・有機合成化学を基盤とした化合物の創製を行う。
 ウイルスは、生物と無生物の境界にあり、タンパク質ータンパク質相互作用を巧みに利用し増殖、感染などを成し遂げる非常に洗練された分子マシナリーを活用している。この分子マシナリーは、非常に効率的であるが故、ウイルスの種間を問わず基本的に保存されている可能性がある。具体的には分子マシナリー解析にバイオインフォマティックスを利用し、ペプチド化学、有機合成化学の支援の下、この分子マシナリーの一つである感染に必須な膜融合を阻害する化合物の汎用性の高いデザイン法の開発ならびに合成を行う。


平成16年度|平成15年度|