ゲノム情報科学研究教育機構  アブストラクト
Date November 28, 2005
Speaker Prof. 廣明 秀一(横浜市立大学大学院 国際総合科学研究科)
Title NMRを利用した創薬シーズ蛋白質ドメインを発見するための方法論
Abstract  ゲノムプロジェクトの進歩による蛋白質一次配列情報の蓄積と、立体構造情報の増加は、ヒトなど高等真核生物の蛋白質の70%近くが、100−300アミノ酸のドメインが複数つらなった「マルチドメイン蛋白質」であることを明らかにした。ドメイン解剖学とは、蛋白質をさらに部分部分に分割してより詳細に調べる方法のことである。しかし実際の解剖とちがって、研究が進む前の蛋白質においては、あらかじめ明らかになっているのはその一次配列情報のみであるため、『どこでどう切りわけるのが正しいのか』未知のケースも多い。
 一方、もし、こうしてマルチドメイン蛋白質から切り出されてきたドメインが、ある特定の分子機能をドメイン単独で担っており、しかもその分子機能が組換え蛋白質において試験管内で再現できるならば、そのドメインは創薬研究に大きな有用性を持つ。なぜなら、通常は分子量数百のオーダーの小さい分子のみが医薬開発におけるシード・リード化合物の興味の対象となり、そうした薬物が物理的に相互作用しうる蛋白質のポケットの大きさは、100−300アミノ酸のドメイン内(や二つのドメイン界面)に含まれる可能性が高い。特に重要なのは、Native蛋白質と同等の分子機能(活性)と立体構造を保ったまま,独立して大腸菌で大量に試料調製可能なドメインを実際に得ることである。ハイスループットスクリーニングや立体構造決定を経た合理的医薬設計を行う上で、溶解度が高く安定な機能性蛋白質ドメインの実験材料が安価に容易に入手できることのメリットはいうまでもない。
 筆者は現在、(1)機能未知・構造未知のドメインの立体構造決定と機能解析、(2)存在が確認されていない領域からの新規のドメインの発見、立体構造決定と機能決定、の双方のアプローチの方法論確立と実地での応用に興味を持って研究をおこなっている。ところが、実際に蛋白質の立体構造をX線・NMRを用いて決定する場合には、ミリM濃度の高い溶解性を持っているか、アグリゲーション(弱い非特異的自己会合)を起こさないか、といった、蛋白質の持つ基本的物性が、その後の研究の成否に大きく影響する。我々はすでに実験的にドメイン境界を高速に決定するのに適したベクター構築法"PRESAT-vector法"の開発を行い、他のバイオインフォマティクス的手法と組み合わせることで、この問題の解決を目指している(1,2)。
 本講演では最近筆者の研究室で構造解析に成功したAAA-ATPaseのアダプタードメインを中心に(3,4)、創薬を志向した構造生物学の最近の話題について紹介する予定である。あわせて、創薬のシーズ探索において利用可能な、蛋白質・薬物相互作用を計測するためのNMR技法についても紹介する。

参考文献
1. Goda, N., Tenno, T., Takasu, H., Hiroaki, H*. , and Shirakawa, M.
The PRESAT-vector: Asymmetric T-vector for high-throughput screening of soluble protein domains.
Protein Sci. 13, 652-658 (2004).

2. 天野剛志・合田名都子・廣明秀一
"タンパク質ドメイン研究のための迅速なベクター構築法 (新実験講座)"
蛋白質核酸酵素, 49(12), 2587-2594 (2004).

3. Takasu, H., Jee, J. G., Ohno, A., Goda, N., Fujiwara, K., Tochio, H., Shirakawa, M., and Hiroaki, H*.
Structural characterization of the MIT domain from human Vps4b.
Biochem Biophys Res Commun 334, 460-465 (2005).

4. Shiozawa, K., Maita, N., Tomii, K., Seto, A., Goda, N., Tochio, H., Akiyama, Y., Shimizu, T., Shirakawa, M., and Hiroaki, H*.
Structure of the N-terminal domain of PEX1 AAA-ATPase:
characterization of a putative adaptor-binding domain.
J Biol Chem. 279, 50060-50068 (2004).
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