21世紀COEプログラム・ゲノム科学の知的情報基盤・研究拠点形成

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 環境ゲノミクス [ English | Japanese ]
金久 實
阿久津 達也
馬見塚 拓
加藤 博章
梅田 真郷
ケモゲノミクス 薬理ゲノミクス
梅田 真郷
京都大学 化学研究所
複合基盤化学研究系
教授
梅田 真郷
    脂質ホメオスタシスとゲノムネットワーク

     最近の脂質メタボローム解析技術の格段の進歩により、生体内には一万種以上の脂質分子種が存在することが明らかとなり、さらに、一つ一つの脂質分子の中に多量の情報が蓄積されていることも明らかとなりつつある。例えば、これまで単なる細胞の包みと考えられていたリン脂質は、様々な酵素の作用によりプロストグランジン、ロイコトリエン、血小板活性化因子、カンナビノイド、リゾホスファチジン酸、イノシトールリン酸、セラミド、等々の無数の生理活性脂質に化学変換されることにより、細胞の情報伝達ネットワークにおいて重要な役割を果たしている。一方、細胞内には、脂質分子と相互作用する様々な脂質トランスポータータンパク質、トランスファータンパク質、転写因子、核内受容体等々のタンパク質が存在し、脂質分子を細胞内で活発に移動させる脂質輸送ネットワークが形成されている。したがって、脂質分子は、細胞内あるいは細胞膜中の一定の場所に留まっていることは決してなく、その輸送ネットワークに乗って様々な部位に移動・局在し、細胞内での濃度勾配が形成されている。また、細胞の増殖期においては、細胞周期に連動して大量の脂質分子の生合成と分解が繰り返されているが、各々の脂質分子種の量比は常に厳密に制御されている。脂質の生合成がどのようなメカニズムで細胞周期と連動し、その量比が調節されているのか、脂質の生合成・分解ネットワークの実体は未だ掴まれていない。最後に、脂質は生命活動を維持するために必要なエネルギー源であり、また主要なエネルギー貯蔵庫でもある。エネルギー源としての脂質は、アミノ酸並びに糖質代謝とも密接に連関して生体のエネルギーレベルの調節を行うエネルギーセンサーとして働き、エネルギー産生・貯蔵ネットワークを形作っている。このように生体内においては、脂質ホメオスタシスとも呼ばれる重層的な脂質の制御ネットワークが形成されている。現代社会においては、脂質ホメオスタシスの破綻が、肥満や糖尿病、動脈硬化等の成人病、癌、感染症、神経性疾患などにも深く関わることが明らかにされつつあり、その原因解明が焦眉の課題として残されている。一方、我々は、脂質分子の化学的変化ばかりでなく、細胞膜中での脂質分子の位置や集合状態の変化を細胞が情報として捉え、細胞の形態形成やサイズの制御あるいは個体の温度選択行動にも関わることを明らかにしつつある。本課題では、生化学・分子生物学による詳細な還元的アプローチにゲノム情報を加え、システム全体のダイナミズムを構成的に捉え直す新たな方法論を開拓することにより、脂質ホメオスタシスの全容を明らかにすべく研究を進める。

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